2008年10月3日 全国農業新聞 「視界不良の世の中ですが」

~アメリカは頼りになるか~

 

アメリカ発の金融危機が世界を揺さぶっている。日本へも株の下落が津波となって押し寄せて、急激な円高もあって輸出産業を中心に打撃は大きく、景気の先行きは暗い。

 

折しも、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の前理事長、グリーンスパン氏が反省の弁を述べている。報道によれば、彼は低所得者向けのサブプライム住宅ローンが、こんなに複雑に商品化されて世界中に売られるようになるとは思わなかった、規制が間に合わず、政策に一部間違いがあったと言っている。率直な点はいいが、今頃間違いがあったと言われても困るよ、というのが大方の反応ではないか。

 

私はふと、分野は違うがバイオエタノールのことを思い出した。とうもろこしを原料にしたエタノールで、ガソリンの代わりに使うというのがアメリカの意志である。ブッシュ大統領が、中等の原油への依存度を下げようとして、法律まで作って推進している事業である。とうもろこしは餌用が基本である。しかし補助金も出ているから、エタノール工場は農家から餌用よりは高くトウモロコシを買い上げる。新しい膨大な需要が生じたので、とうもろこし相場は高騰して、毎年1600㌧も輸入している日本もその影響をこうむっている。

 

アメリカ政府高官に言わせると、穀物価格の高騰へのエタノールの関わりは微々たるものだという。本当にそうだろうか。大豆からとうもろこし畑へ転換する農家もいて、穀物生産全体のバランスへも影響が及んでいるのが現実なのではないか。現在は、アメリカのとうもろこし生産農家は収入が増えて大喜びらしい。けれども一方、日本では餌の価格があまりにも高くなって、経営が維持できずに廃業する農家も現れている。この格差は実にひどい。

 

貿易は市場原理にもとづいていて、市府は関与できないというのが自由主義社会の鉄則だろう。しかしエタノールの奨励は国の意志であり、市場原理をかき乱している。アメリカをどこまで信頼して良いのか。経済の不況や穀物高騰を見て、私の懸念は膨らむばかりである。