ニュースレター08年春号

食べ物の値段・何故こんなに高くなるの?

中村靖彦●文

Text by Yasuhiko Nakamura

 

「パンが高くなったわね」
「カップ麺、いつからこんなに上がったの?」
「え、ハンバーガーは大衆路線と思っていたのに」
この頃、街のあちこちで聞かれる声です。
本当に食品の値上がりが著しいこの半年でした。しかも、まだ続きそうです。
新年度に入る4月以降も、ビール、ピザ、牛乳、さらに醤油など、暮らしに身近な食品を値上げしたいといっているメーカーが待機しています。


食品価格は何故こんなに高くなるのでしょうか?一言で言えば原油価格と食品の原料価格の高騰です。日本がほとんど全てを海外に依存している資源です。

 

原油はこのところ1バレル(159?)100ドルを突破しています。28年前、第2次石油危機が起きた時の価格が35ドルを超えたくらいでしたから、現在は大変な状態になっているわけです。燃料としての石油価格の値上がりがは全ての産業に響きます。そして日本はこの資源を完全に中東に依存しているのです。

 

 

さて、パンやパスタの原料になるのは小麦です。日本の自給率は低いので、毎年540万トンほどを海外から輸入しています。コメの生産量がおよそ850万トンですから、この輸入量の多さが分かると思います。

 

小麦の国際相場がどんどん高くなりました。原因は主な生産国の不作です。アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、そして2年連続のオーストラリアみな輸出国ですから、輸入に頼っている日本は大きな影響を受けました。

 

日本では小麦は、政府がまとめて輸入して製粉会社に売り渡す方式を取っています。小麦の生産を奨励するために、安い外国産小麦の価格をそのままでなく、調整して売り渡しているのです。政府はその売り渡し価格を去年の10月に10㌫、今年の、4月から30㌫引き上げました。製粉会社はその値上げを小麦粉の価格に転嫁し、これがパンとパスタの値上がりの原因になっているわけです。

 

一方、家畜の餌として重要なのはとうもろこしです。こちらも国際相場が高騰していて日本の畜産農家は深刻な打撃を受けています。とうもろこしは、配合飼料といって様々な原料を配合して作る餌の、一番中心になる穀物だからです。日本が輸入しているとうもろこしの量は、年間およそ1600万トン、このうち1200万トンが餌用です。そして最大の輸入先はアメリカです。

 

最近のとうもろこしの価格の高騰には、特別の事情があります。それはアメリカにおけるバイオエタノールの生産です。車社会のアメリカは中東の原油価格の上昇がガソリン価格に響くことに危機感を抱きました。そこでブッシュ大統領は、ガソリンに代わる燃料としてエタノールの生産を奨励しました。そしてこの原料にとうもろこしを使うことにしたのです。今まではなかった新しい需要です。

 

私は2月の下旬からアメリカに取材に行きエタノール工場も見て来ました。シカゴで穀物の買い付けをしている豊田通商の人に会いましたが、彼の言葉が印象的でした。
「エタノール用のとうもろこしの値段がいいものだから、ウチの前は素通りしてみな向こうの工場にいってしまうんだよ」
確かに1台に25トンのとうもろこしを積む巨大なトラックがエタノール工場の前に60台ほども並んで荷おろしを待っていました。こんな風景が毎日見られるそうです。2010年にはアメリカ産とうもろこしはエタノール用が全輸出量の倍に達するとの予測がたてられています。これがとうもろこし価格の高騰の要因です。

 

このような事情に加えて、中国やインドなどの新興国が、食生活を向上させて穀物需要が増大していることも、相場の値上がりの背景になっています。大豆などはまさにその一つで、中国は食用油の消費が急増していて、いまや世界一の輸入国になってしまいました。

 

資源の乏しい日本は、国際相場の影響をまともに受けて、これらを原料とする食品価格が値上がりしているのです。原因はかなり構造的なものですから、この先も高値安定のような状況は覚悟しなければならないでしょう。

 

生活防衛に努めるのは勿論ですが、私たちは、食料生産の大切さに関心を持つことが重要な時代になると思います。