食材の寺小屋

『混乱の食と農の時代に』

 

「あなたはこのような場が欲しかったのね」「寺小屋」開校の日、会長の辰巳芳子さんが私にこういいました。そう、私は小さくてもいいから志のある人が集い、食や農についての勉強をして、お互いを高めあう場が欲しかったのです。欲しい、というより必要だと思っていたのです。 平成17年4月25日「食材の寺小屋」は発足しました。場所は、世田谷区池尻にあって、廃校になった池尻中学校の一室です。63㎡の教室跡で、黒板も教壇もそのまま残っていました。

 

「寺小屋」は、江戸時代に子供たちにイロハとか算数、あるいは地理などを教えた勉強の場でした。7才から10才ぐらいまでの子供に、教える先生は多彩、浪人中の武士、農業者、職人、お寺の住職などなどでした。ひとつの寺小屋は20人から30人、こじんまりとしていましたが皆熱心でした。

 

私たちは「食材の寺小屋」で学びどこか歪んだ現代の食とか農業に対してきちんとした情報を発信していきたいと思っています。私たちの会員に、あるいは世田谷区民に、そして全国に。食のことですから楽しく、分かりやすく。 これがNPO法人としての私たちの会の社会的責任でもあると思っています。草の根の活動を息長く、です。

 

初年度の年間テーマは「旬」でした。食材を大切にしたい会としては、あらためて野菜などの旬を確かめてみようとの趣旨です。18年度は「大人の食育・子供の食育」、19年度は「生命(いのち)をつなぐ食」を、そして20年度は「食のちから」を年間テーマにして勉強しています。
18年度の途中から「食材の寺小屋」は東京農業大学の「食と農」の博物館に移りました。農大の食育研究会と提携して勉強を続けています。皆さんのご参加をお待ちしています。

 

塾長 中村靖彦

 

 

ホームページリニューアル

良い食材を伝える会のホームページをリニューアルしました。

今後も、講座情報や、イベントの情報を発信していきます。

 

 

入会のご案内

この会の年会費(4月~翌年3月)は1万円です。お振込みいただくと当会発行の書籍「日本の地域食材」、寺小屋での勉強会の記録集、ニュースレター、寺小屋のスケジュールをお送りいたします。

 

入会ご希望の方はe―mail info@yoishoku.comまたはFax03―3423―6085にお名前、ご住所をご明記の上お申し込みください。到着次第、主な活動資料、年会費用郵便振替用紙などを郵送いたします。

 

 

中村靖彦コーナー

  nakamura.jpg「消費者庁以前の問題だと思います」

良い食材を伝える会  代表理事 中村靖彦

 

船場吉兆の事件には驚きましたね。客が食べ残した料理を使い回ししていた、例の事件です。このところ、食品偽装はいろいろありました。でも、期限表示の違反などは、いけないことだけど、すぐ誰かがお腹をこわすといった事件ではなかった。でも、料理の使い回しは、いくら手をつけずに綺麗に残っていたといっても、埃とか客の唾くらいは飛んでいるでしょうし、衛生面でも危ない。保健所が立ち入り検査をしたのは当然です。

 

第一、もう一度焼き直して別の客に出すなど、料理人の誇りはどこへ行ったのか。そして、このような行為をじーっと見ていて、我慢していたであろう従業員の顔が目に浮かぶ。耐えきれなくなって、外部へ訴え出たのだろうけれど、外食産業の荒涼とした内側を見る思いがします。味の良さ、美しさなど日本料理を扱う繊細な技術と感覚どころか、モラルは崩壊しています。

 

立派な外食はもちろんたくさんあるでしょう。これは稀な例だと思いたいが、"他にも?"と疑い深くなる気持ちを抑えることができない。消費者庁を福田総理が考えて、具体化しようとしています。結構だと思いますが、それ以前の問題があるようですね。

 

今後、食と農についての私の思いを、ホームページの中村靖彦コーナーに発信していきます。
混沌とした現代へのメッセージとして読んで下さい。

 

 

ニュースレター08年春号

食べ物の値段・何故こんなに高くなるの?

中村靖彦●文

Text by Yasuhiko Nakamura

 

「パンが高くなったわね」
「カップ麺、いつからこんなに上がったの?」
「え、ハンバーガーは大衆路線と思っていたのに」
この頃、街のあちこちで聞かれる声です。
本当に食品の値上がりが著しいこの半年でした。しかも、まだ続きそうです。
新年度に入る4月以降も、ビール、ピザ、牛乳、さらに醤油など、暮らしに身近な食品を値上げしたいといっているメーカーが待機しています。


食品価格は何故こんなに高くなるのでしょうか?一言で言えば原油価格と食品の原料価格の高騰です。日本がほとんど全てを海外に依存している資源です。

 

原油はこのところ1バレル(159?)100ドルを突破しています。28年前、第2次石油危機が起きた時の価格が35ドルを超えたくらいでしたから、現在は大変な状態になっているわけです。燃料としての石油価格の値上がりがは全ての産業に響きます。そして日本はこの資源を完全に中東に依存しているのです。

 

 

講座の情報を更新しました

6月から8月に開催する講座の情報を更新しました。

 

 

ニュースレター08年春号

貝に想う

辰巳芳子●料理家 随筆家

Text by Yoshiko Tatsumi

 

母浜子の料理歳時記は、大正、昭和の食文化を示す、一級の資料と云われるようになり面映いが、本の末尾の解説、かの荻昌弘氏の予言めいた一文が胸にこたえるこの頃です。

 

本の内容は旬の様相と、それを扱う喜び、楽しみ、感謝、そして戒めを語っております。「春」に就いてでしたら、野のものとして、蕗のトウから始まり、食べられる野草として、なずな、嫁菜、た○ぼ、芹、つくし、小豆菜、くこ、五加、にら、根三葉、たけのこで野山の恵みを〆くくり、続いて海藻類。次は貝のさまざま。これらのまとめは春の和えもので示すという。親ながら実力の手際なのです。
読みすすめば海に囲まれた温帯の風土の豊かさ、おのづからなる料理の数々、それをめぐる人情。失ったもの、とり返しのつかぬことが立ち現れてきています。
例えば、今は三月、春ゆえに「貝」の部の、赤貝に就いてを御披露してみます。
私の台所に、絶えて赤貝が香る興奮はないのですが。

 

赤貝の面白さを知っていますか。本場と場違いがあるのですよ。赤貝はそれと見てわかるところが面白いのです。第一色の鮮明さが違います。サーモンピンクに光り輝いているのが本場もの、場違いは少々ババ色をしています。第一血の色まで違うのですよ。そして本場の赤貝は一本毛がはえているのです。
こんなところまで、皆さん調べていますか?
赤貝一つこんな小さなもの一つ知らないのですよ。第一若い魚屋が知らない。昔物の魚屋か、一流料亭の板前さんくらいしか知らないのが現状です。戦前は長屋のおかみさんだって「今日は江戸前の赤貝があったから、お酢のものにしたよ、わさびをきかせたから熱カンで一杯お上がりよ」てな調子で旦那をねぎらったものです。
本場、場違いの見分けのつかぬまゝ、かぶりつきにどっかと腰をかけ、「おあと何にしましょうか」「赤貝」「生きがようござんすよ」と俎板にぶつけるとちょっと動き、庖丁の根元でちょんと切るとはぜます。赤貝は鮮度がおちていても、筋に直角に庖丁をいれゝば切り目は笑います。
世の中全体が、本ものを尊しとしない精神が横行しすぎて、ハッと我に返った時には、本物が消えてなくなり、元にもどそうとしても、もどせなくなったのが、今の生活状態と云っては云いすぎでしょうか。

 

この本の諸般は一九七七年。七年間の書溜めだから、赤貝の項は三十五、六年前のことでしょう。私は、母亡くなってから、「みる貝、平貝、赤貝など我が手で扱ったことはありません。
蛤は七、八年口にせず、あさりもしじみも遠い所のもの。つまり砂地で生きた貝は食べられない。垂下式で育てたものだけ食べています。貝類は大好きなのに。
今春、気仙沼、唐桑のホタテを繰返しくりかえし自他ともに食べました。
くりかえしとは、「惜別」の予感の故です。六ヶ所村(編集部注 青森県にある原発廃棄物の廃棄地)が開始したなら、三陸のもの(早晩日本沿岸すべて)はいち早く、食べてはならぬものになるに決まっています。特に海草と貝は動けませんから。
私共は海洋民族です。海に育てゝもらった人間達です。海をないがしろにした時、この国の命脈は盡きると覚へて下さい。
エネルギーとかで一時恰好はつき、自慢出来る人も現れるでしょう。
しかし、損なわれた生命(人間は核物質を受容しうるに出来ていない)に経済成長があって、何の喜び、何の幸せでしょう。唐桑の貝の美味は、私にとってなんとも複雑な味わいでした。

 

 

"食卓が変わる"シリーズ Ⅰ.

「値上げ続くパン・ラーメン・etc. ~原材料"小麦粉"の全てを学ぶ~」

 

気軽に食べていたパンやラーメンでしたが価格に影響が出ています。日本の小麦事情を知ってかしこく備えるために。

 

◎開催日時詳細

日時:2008年6月4日(水)

 

第1部 13:30~14:15
講 演:「なぜ小麦粉価格が上がるの?」
講 師:渡辺 一充 さん (日清製粉㈱業務本部グループリーダー)

 


第2部 14:20~15:30
講 演:「食卓の中の日本の小麦粉事情」
講 師:横塚 章治 さん (日清製粉㈱商品開発センター所長)

 

 

"食卓が変わる"シリーズ Ⅱ.

「地球温暖化で食卓は大丈夫?」

 

地球温暖化による異常気象で世界の食料が大ピンチ! もちろん日本の食卓にも影響が出ています。
地球温暖化と私たちの食卓のメカニズムをわかりやすく解説します。

 

◎開催日時詳細

日時:2008年6月18日(水)

 

13:30~15:30
講 師:杉浦 俊彦さん (独立行政農研機構 上席研究員)

 

 

試飲体験講座

「薬用酒からカクテルまで ~リキュールの楽しみ方~」

 

リキュールとは果実やハーブなどを蒸留酒に加え、調製したお酒のこと。
そのまま飲んだり、カクテルにしたり、お菓子の味付けに利用したりと種類が多いので用途に合わせて自由に使えるのが、一番の楽しみでしょう。健康維持・増進の効果のあるものもあります。    
学んだことをすぐ実践! 美味しく爽やかに夏を過ごしましょう。

 

♪ この日はおなじみマコ先生のリキュールに合ったお菓子も楽しめます ♪

 

◎開催日時詳細

日時:2008年7月8日(火)

 

13:30~15:30
講 師:久保田 素生さん (サントリー㈱スピリッツ商品開発研究部)

 

 

体験講座

「スパイスを学んでカレーを食べよう!」

 

スパイスは世界には500種ともいわれています。 あなたはどのくらいのスパイスを知っていますか?
インド産のスパイスは世界的に有名で、カレーには欠かせない香辛料です。
スパイスの調合から味見までを体験します。

 

◎開催日時詳細

日時:2008年7月24日

 

13:30~15:30
講 師:山田かず美さん (エスビー食品㈱研究員)

 

 

夏休み企画

親子しょう油出前教室   「しょう油マジック」(参加費無料)

 

おしょう油物知り博士がすべての知識を伝授します。 説明はやさしく、臭いをかいだりさわったりの実験やクイズです。さあ、おしょう油の不思議にせまりましょう。

 


◎開催日時詳細

日時:2008年8月5日(火)

 

13:30~15:00

講 師 : 水村 津与志さん((財)日本醤油技術センター 次長)

 

*親子20組40名
*共催:日本醤油協会

 

 

夏休み企画

「東京の牛飼いに都市酪農を学ぶ」

 

夏休み出前講座です。今年は東京農業の生産者です。常設の東京農業大学「食と農」の博物館を出て東京、八王子の牛飼いを訪ねます。
東京、八王子にある、世界で一番ちいさいヨーグルト工房をもつ「磯沼ミルクファーム」を訪ねます。
磯沼ファームは観光農場ではなく、高尾山口にある純粋の酪農家で、酪農教育ファームに指定されており、酪農業の理解促進のための活動を積極的に続けています。住宅と隣接する都市酪農の知恵を学び、新鮮な牛乳、ヨーグルトなど美味しい乳製品を味わいます。

 


◎講 座 内 容

開催日時:
2008年8月27日(水) 午前11時~午後3時(予定)

 

開催場所:
磯沼ミルクファーム
東京都八王子市小比企町1625
TEL 0426(37)6186

 

募集人数:30名(先着)
当日は京王線「山田駅」前 現地集合となります。
参加の方には追って詳細をお送りいたします。

 

参 加 費:
4,000円(概算。現在先方と打合せ中)

 

講座内容(予定): 

1.講義
都市酪農と磯沼ファームの特性について、ご主人の磯沼正徳さんにお話をうかがい、その後、施設を見学します。

 

2.体験学習
搾乳体験 ・ ミルク3種のテイスティングなど。

 

3.ランチ
磯沼ファームの「牧場ランチ」をお庭でいただきます。
地元の小麦で作ったパンとファーム特製のソーセージやベーコン、地元産季節のサラダなど。 もちろんデザートは磯沼ファーム自慢のヨーグルトとアイスクリーム♪

 

※磯沼ファームの乳製品が購入できます。

 

 

野菜の日記念講座

「やさいの色には"理由"がある」(参加費無料)

 

夏野菜の代表"トマト"。
ジュース、ペースト、ピューレと様々なタイプがあって、使い勝手のよい野菜です。
鮮やかな赤い色は食欲をそそりますが、"赤い色"にトマトのおいしさとパワーがつまっています。
よく使う食材を正しく知って、一層美味しくいただくコツを学びます。

 

◎開催日時詳細

日時:2008年8月31日(日)

 

13:30~15:30

講 師 : 本多 京子さん (医学博士 ・ 管理栄養士)

 

*共催:(社)全国トマト工業会

 

 

「食育はここから始まる日本の地域食材」2006年度

NPO法人 良い食材を伝える会

 

「良い食材を伝える会」が全都道府県に対して食材の調査をし、まとめたのが『日本の地域食材』である。本書で紹介している食材は、農水産物・きのこなどの林産物が中心で、一部加工品も含まれている。種類は、野菜、果物、加工品、穀類、水産物、畜産物等であり、一般的なものから各地で守られている伝統的な種類や品種までおよそ1600点である。
各食材の解説項目は、生産地、特徴、名前の由来、用途・食べ方、生産状況と将来性、問い合わせ先、価格の目安、取り寄せ、生産量等であり、その食材の現況が把握できるような解説を行っている。口絵カラーページには、インカトマト、平田赤ねぎ等の珍しい食材の数々も紹介し、利用しやすい索引もついている。各地の食材を覚えるには最適の書である。
判型B5版、口絵カラー4ページ、本文・索引を含めて536ページ、頒布価格3200である。

 

日本の地域食材

 

食材の寺小屋 「食」から日本を考える

NPO法人 良い食材を伝える会

 

食材の寺小屋

 

平成18年11月5日付け 熊本日日新聞「論壇」

「石油も大事、だが飼料も大事」

 

『お金は大事だよ~』というCMがあった。滑稽なアヒルが登場するCMである。
この頃私は、真似をして、『石油は大事だよ~飼料も大事だよ~』と言いたい気持ちである。

 

その気持ちの原因はエタノールである。エタノールは、エチルアルコールである。
アメリカでは、ずっと続いている原油価格の値上がりに対抗するために、エタノールをガソリンに代わる燃料に使おうという雨後戯画活発になってきた。
車社会アメリカの、止むにやまれぬ対応なのである。このことは日本、いや世界にも少なからぬ影響を及ぼすだろう。

 

日本にも影響が留理由は、アメリカでエタノールを製造するのに使う原料がとうもろこしだからである。
アメリカは年間およそ3億トンものとうもろこしを生産する国である。

 

そのうち、四千六百万トンが輸出に向けられる。日本は毎年1600万トンほどを輸入している。
1200万トンが餌用、残りが澱粉用である。アメリカが、このとうもろこしを国内のエネルギー需要に向け始めれば、当然輸出は減るだろう。」とうもろこしの大輸入国である日本への影響は大きい。
2006年1月、ブッシュ大統領は一般教書演説で、アメリカ国民に対して呼びかけた。
エタノールなどの石油に代わるエネルギーの開発で、2005年までに中東からの原油の輸入を75%以上削減しようというのである。

 

 

2008年6月6日 全国農業新聞 「視界不良の世の中ですが」

『騒ぐだけでは困る』

 

予想通りのことになっている』。』最近の穀物価格の高騰をめぐるメディアの過熱ぶりのことである。
ずっと日本のメディアは、食料や農業問題には理解も関心も薄く、私はしばしばじれったい思いをしてきた。ただ、何時か食料事情が厳しくなった時には、今度は火がついたように書いたり、映像を流したりするだろうなとは思っていた。予想は、比較的早く現実となった。

 

新聞も放送も、連日、食料品の値上がりとその背景を競うように報道しまくっている。今にも、食べ物がなくなってしまうような論調さえある。
記者たちを指揮するデスクの顔が見えるようだ。「おい、ウチはアジアのコメ不足のこと、もっと書けねえのか。この新聞はずいぶん詳しいぞ」「その後、エタノールへのトウモロコシの転用はどうなっているんだ」。毎日、こんなやりとりが編集局の中を飛び交っているのだろう。遅れを取るな、どんどん書けである。
世界の重要なトピックである穀物危機を取り上げるのは結構なことである。だけど騒ぐだけではダメなのである。