2019年9月15日    「認知症を防ぐ食」      


 
東京医科歯科大学 能統合機能研究センター
                朝田 隆 さん                  

認知症を防ぐ食生活の基本はバランスと多様性」

 認知症の研究を30年以上続けている東京医科歯科大学脳統合機能研究センターの
朝田隆教授に「認知症を防ぐ食」と題して話をうかがった。認知症の8割を占めるのが80代以上の高齢者であることから、80歳を過ぎても認知症になりたくなかったら事前にどう予防するか、という点にフォーカスを当てたものだ。

 
 認知症治療の現状を見ると、最後の治療薬が開発されたのがおよそ四半世紀前、
それ以来、成績が公表されているものに限っても新たな薬の治験成績は30連敗と振るわない。また、この30年余りで提案されてきた様々な予防法の多くは効くという証拠がなく、効果がないと思った方がいいという。個々の予防法が客観的に評価されるようになったのはここ10年ぐらいのことだ。

 現在、認知症の原因と考えられているのは、①加齢②遺伝的要因③うつ病や生活習慣病。一方、予防に役立つのは、①運動②知的な活動③食生活。従って、認知症の予防は食生活の改善だけでは不十分で、生活習慣病やうつ病にきちんと対応したり、運動や知的な刺激、社会との交流を視野に入れた望ましいライフスタイルを実践したりすることが重要となる。この点から、認知症の最大の危険因子は中年期からの難聴だという。コミュニケーション不足になり孤独感からうつ病を発症するからだ。

 認知症を防ぐにはどのような食生活を送ればいいのだろう。もちろんこの中には生活習慣病への対応も含まれる。世界保健機関(WHO)は2019年5月に「運動と食生活改善で認知症のリスクを減らせる」という報告書を公表した。この中で、サプリメントを使わないバランスの取れた食生活、具体的には野菜や豆類が豊富で、乳製品や肉より魚を摂り、不飽和脂肪酸を多く含むオリーブオイルを使う「地中海料理」を推奨している。

 日本的なバランスの取れた食生活の基本は「まごたちはやさしい」だ。これは、豆、胡麻、卵、乳(チチ)製品、わかめ、野菜、魚、椎茸、芋の頭文字を並べたものであり、これらの食材は日常的に摂るように心がけたい。これらに関連して、「マーガリンは使わない」「カルシウムの吸収を助けるビタミンDは椎茸よりきくらげの方が多い」「脳の機能を向上させるDHAは青魚に多いと言われるが実際に最も豊富なのは鮭」といった「豆知識」もある。

 多くの患者を診てきた米国人医師による『アルツハイマー病 真実と終焉』に記されている食生活のポイントは、

①頭の回転を上げるために軽い炭水化物不足状態にする

②肉は添え物とし、オリーブオイルやアボガドなどから脂肪を摂る穏やかな菜食主義を実践する

③ファストフードは避け繊維分を多く摂る

④免疫機能を活用するため腸内微生物を最適化する

といったことである。

 60歳を過ぎたら、脳への影響が大きい活性酸素の活動を抑止するため、サプリメントではなく食事から抗酸化物質を多く摂ることも重要となる。抗酸化力ピラミッドの頂点に立つ食物は意外にも馴染み深い果物「バナナ」で、れんこん、茶葉、にんにくなどが後に続く。抗酸化物質として知られるポリフェノールを摂るには、含有量の点から赤ワインではなく、ココアやダークチョコレート、オレガノやくるみなどがお勧めだ。

 食生活の基本はバランスと多様性である。これは、

①生命維持に必要な栄養素(主役)は欠かせない

②主役は微量栄養素(脇役のビタミンやミネラル)があってこそ活きる

③特定の食品の過剰摂取は諸臓器に負担をかけるので有害

との理由からである。現代日本人のメニューは脂肪や炭水化物が過多でビタミンやミネラルの摂取が少ない。抗酸化作用も期待できる野菜を積極的に多く摂ることでバランスが良くなる。

 朝田さん自身は、1日に2030種類の食材を摂るように心がけているという。例えば、昼食は決まって10種類以上の具を入れた大きなおにぎりだそうだ。

 

      

              

 


小森真幸 (会員)