2019年6月18日    「種子法廃止が意味すること」      


 
                  東京大学大学院農学生命科学研究科  鈴木宣弘さん                  

「種子法」は、コメ、麦、大豆などの主要農産物の種子の保存や開発を、国が主体となって行うべきと定めていました。そして、都道府県に実際の業務を委ねることになっていました。この法律の後ろ盾がああって、各県の農業試験場などは、コメや国産麦の研究開発に力を入れてきました。つくり出された新しい品種は、各県ごとの奨励品種となって人々の食卓を豊かにしたのです。

 この種子法を廃止するという方針が伝えられた時は、正直私は驚きました。各市町村からも反対の声が上がりましたが、一般のテレビ・新聞などでもそれほど話題になることもなく、廃止はあっという間に決まってしまいました。背景にあったのは、世の中のいろいろな分野で推し進められている規制改革の流れです。国の関与をなるべく少なくして、民間に委ねようという官邸主導の波が農家の基本的な部分にも及んできたと言ってよいと思います。

 この問題の国民の関心は高く、種子法廃止は20184月に決定したにも関わらず、もっと詳しく知りたいとの当会の会員の希望も強く、今回のセミナーで取り上げさせて頂きました。講師の鈴木宣弘さんは、歯に衣着せぬ話しぶりで有名な人で、セミナーの会場は満員の盛況でした。

 鈴木さんは、種子法の廃止は、グローバル種子企業の世界戦略ときわめて整合性が取れていると言います。生命の源の基礎食料(中でもコメ)、その源の種子は安全保障の要でもあるから、国として県として、良い種子を安く供給し、生産と消費を支えるのが当然の責務としてきたのを止めて企業に任せろというのが種子法廃止なのだ、と説明します。

    


 グローバル種子企業の世界戦略は種子を握ることです。種子を制する者は世界を制する、というのはかねてから言われてきたことでした。鈴木さんは、レジメでM社としていますが、講演ではモンサントと企業の名前をはっきり言っていました。

 モンサント社は、化学製品の製造では世界的に有名な会社です。私も現役の時には二度アメリカの本社を取材に訪れたことがあります。この会社を有名にしたのは、遺伝子組み換えの種子の生産でした。遺伝子組み換えの技術は、通常の交配による品種の開発ではなく、遺伝子の鎖を酸素の力で切り取って、そこに新しい遺伝子を組み込むもので、季節に関わりなく品種改良を進めることができます。

 こうして作る遺伝子組み換え食品については、日本ではまだ警戒感が強く、このために表示の正確さが求められています。

 もし、このような化学の会社が公共の種子生産を後退させて種子を独占し、これを買わなければ人々は生きていけない、という形を作れば、そのビジネスは巨大なものになると鈴木さんは指摘します。

 種子法の廃止を、食料は武器だという観点から分析した鈴木さんの視点は新しく、聴衆の共感を呼んでいました。種子法の廃止に対する一般の不安は強く、もう国に頼らずに地方自治体が主体になって、日本の基礎的食料の種子の開発、保存をしていこうとの動きが出始めています。これからの新しい勉強の材料になるかもしれません。



「食材の寺小屋」塾長
中村靖彦