2019年5月10日 「知っているようで知らない豆腐の話」
株式会社いづみや 青山 隆さん |
講師は、昭和2年創業の「いずみや」顧問青山隆氏。「豆腐の産湯に浸かり、豆腐にかかわって70年余」とおっしゃる豆腐愛並々ならぬ御仁です。
大学卒業後すぐ家業に入り、丸紅(株)と提携して日産10万個の豆腐製造プロジェクトを立ち上げました。地釜加熱を蒸気釜加熱に変えて焦げ付きのリスクを回避する、凝固成型工程を自動化する、などの変革を行い、現在の大型豆腐製造設備の基本を作られたそうです。現在、全国豆腐連合会(全豆連)相談役、全豆連とうふ検定準備委員会委員長など多くの要職につかれており、また「豆腐読本(豆腐検定試験用教科書)」などの著書も多く、豆腐研究家としてマスメディアにも度々登場しておいでです。
●豆腐の歴史と普及
赤ちゃんからお年寄りまで安心して食べられるヘルシーな栄養食品である豆腐は、紀元前2世紀に中国の前漢の時代に作られ、日本には奈良・平安時代に伝来したといわれる。鎌倉時代には精進料理の材料として重宝され、秀吉の朝鮮出兵の際に戦国武将が豆腐職人を連れ帰ったことで製造技術が向上した。
江戸時代には石臼が普及して量産が可能になり、料理本「豆腐百珍」がベストセラーになるほど庶民に人気の食べ物になった。明治時代には大豆の供給量も増して生産が拡大し、各町内に豆腐屋が1軒はあるという状態になる。更に手挽きの石臼が電動式になり、第二次大戦後には金剛砂製のグラインダーに変わると、目立てが不要となって磨砕が安定し品質がさらに良くなった。
●豆腐の製造工程
現在、豆腐の原料になる食用大豆は、国産品が3割弱にとどまり、多くをアメリカ、カナダ、中国など
からの輸入に頼っている。従来の農業政策は、農家が作りやすく収量が多い品種を奨励し、品質を重視しなかったが、この頃は風味が強くたんぱく質の多い豆腐向けの品種の栽培に力を入れる農家も現れている。
豆腐作りの基本は①大豆の浸漬→②磨砕・加水→③煮沸→④絞り(豆乳とおからの分離)→⑤凝固剤で固める→⑥型箱に入れて固める、という工程を経て作られる。以前は町の豆腐屋さんが手作りで製造していたが、自動投入製造装置、連続式おから絞り機、自動凝固機、自動包装機などの高度な生産機が普及、工場で大量生産、品質管理の徹底などができるようになった。このため、昔ながらの小規模な豆腐屋さんは激減し、地方独自の豆腐は少ない。しかし、近年はその地域限定の特色のある豆腐を認定しようという動きも出てきている。
●豆腐の種類
昭和30年以前には豆腐といえば木綿豆腐を指したが、昭和40年代に絹ごし豆腐が普及し、豆腐は木綿豆腐と絹ごし豆腐に区別されるようになった。
木綿豆腐は7%前後の薄い豆乳を凝固、熟成後に荒し、湯取りして木綿の布を敷いた型箱に流し入れ、脱水成型したもので、豆腐凝固形分が高くたんぱく質が多い。絹ごし豆腐は、以前は腕のよい職人が夏場に高級品として作る程度であったが、昭和40年代にPH調整剤であるグルコノデルタラクトンを凝固剤として使用し始め、簡単に作れるようになった。凝固剤を加えて型箱に流し入れ、均一に混ぜてから一定時間おいて固めるが、絞らないため、なめらかできめ細かく仕上がる。ソフト木綿豆腐は、荒し、湯取り、圧搾をあまりしないため、木綿豆腐と絹ごし豆腐の中間のやわらかさとなめらかさが持ち味。凝固剤として硫酸カルシウムや乳化にがりを使う。現在、スーパーマーケットで売られている木綿豆腐は、ほとんどがソフト木綿豆腐である。充填豆腐は豆乳を冷却して凝固剤と共に1丁ずつ容器に注入し、密閉、加熱するもので日持ちがよい。
●凝固剤の話
豆腐を固める凝固剤の種類には、塩凝固、酸凝固、酵素がある。
★塩凝固
①塩化マグネシウム(通称・にがり)
海水から塩を取って残りの液を煮詰めた純度95%以上の白色の結晶体。凝固温度が55~65℃と低いため、衛生管理が必要。
②粗製海水塩化マグネシウム(通称・天然にがり)
海水成分中心の塩化マグネシウム純度が低い液体。食塩(Nacl)や塩化カリウム(Kcl))が含まれ、凝固反応が遅い。凝固温度は65~70℃。海洋の重金属や有毒な菌による汚染が問題視された昭和32年、食品添加物の指定時に使用禁止にされたが、基準が明確でないまま時が経ち、現在、天然志向の消費者の需要に応じて一部の業者が凝固剤でなく食品として使用している。
③乳化にがり
塩化マグネシウムを食用油、乳化剤などで包み、乳化させたマヨネーズ状のもので、凝固温度は80~90℃。なめらかな豆腐が衛生的に作れる。にがり使用表示のある大多数の豆腐に使用されているが、にがり成分より油のほうが多い製品もあるが、乳化剤が使用されていてもキャリーオーバーで表示義務がないため、製品には表示されていない。
④硫酸カルシウム(すまし粉)
石膏を精製したもので、天然物と化学合成品がある。第二次大戦中、飛行機製造の原料として塩化マグネシウムが必要になり、豆腐製造には代替品の硫酸カルシウムが使われた。凝固に60秒程度かかるため均質な豆腐になり、湯が排出されないために大豆の栄養分が残る。絹ごし豆腐に向く。
★酸凝固
グルコノデルタラクトン
ジャガイモやトウモロコシ、ブドウなどのでんぷんを発酵させて作る。凝固速度が
遅く凝固温度が高い、㏗値が下がるなどの特性を持つため、日持ちのよい充填豆腐
に多く用いられる。
★酵素
トランスグルタミナーゼ
ハム、ソーセージ、かまぼこなどの製造過程で、食感や接着をよくするため使われており、豆腐では絹生揚げに使われることが多い。
●木綿豆腐のナトリウム量の変化
近頃は天然志向・グルメ志向の消費者が増えたことから、ナトリウム分の多い粗製海水塩化マグネシウムを凝固剤に使用した製品が人気である。また風味をつけるために食塩を添加するなどした結果、木綿豆腐のナトリウム量は、食品成分表三訂版では100g中5㎎であったものが、七訂版では59 ㎎と大幅に増えていて、豆腐公正規約案で食塩を凝固成分の半分以下に規制することも検討されている。
講演中の時間を有効活用して、温めた豆乳に塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、乳化にがり、グルコ
ノデルタラクトンを加えた4種類の豆腐を作り、講演後試食。前者2種は豆の甘みが残る素朴な味、後者
はいつもの味、という感想で、スーパーの豆腐に慣れてしまったわが身を反省しました。