2019年3月7日    「日本のすし文化を考える」      

                  銀座久兵衛 二代目社長      
                             今田洋輔さん

今回の講座は両掌から和食の粋を生み出すすしの銀座久兵衛社長・今田洋輔さん(74)。そもそもすしとは、という話を枕に、いくつかのビデオの画面を見せながら付け台を舞台にした話は続く。

 すしの初めはニゴロブナの子持ちを塩蔵し、余分な水分を除き、麹をまぶして作ったもので山間地域の栄養源として生まれたもの。鯖の場合には塩の若狭街道を運ばれて京に着くころにはちょうど良い塩梅になる。シャリに砂糖を入れるなど甘味を加えて保湿性を高め、材料が固くなるのを防いでいた。江戸前ずしの場合にはシャリに甘みを加えず、新鮮な素材の味を楽しむというのがねらい。久兵衛ではガリにも砂糖は使わないそうだ。

 ビデオが変わるとコチ、タイ、カンパチ、サワラ(焼き物や昆布じめ用)、クロムツ(ノドクロ)、こはだなど、美味しそうなものが続く。こはだについては、開いてからあとの塩の当て方が一番と強調。そのあと酢に回すが塩がきちっと効いてないと生臭さが残る。シャリと合わせ、しょっぱからず生臭くなくが肝心。
さばきなどを入れると食材の前処理には30項目ほどの手順がある。何事にも小さな手順の積み重ねが客商売には重要と説く。毎日の積み重ねで頂のない山を登り続けるようなものですと述べている。

 

       


 創業から80年以上、家族で暖簾を維持してきた。北大路魯山人、吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、大平正芳、宮沢喜一など歴代総理大臣、クリントン米大統領、オバマ米大統領と多くの著名人に愛された「銀座久兵衛」。
モットーは楽しく美味しく。「美味しい寿司だったねー。お酒だったねー」と客に言ってもらえるように心がけている。

 今年は創立84年目だが、店の経営には今まで色々苦労もあるようだ。バブル崩壊後は個人の一見の客に、拡張した銀座本店に来てもらえるように努力。95年の60周年の時には、11時半から3時ごろまで10,000円の食事券を発行したり、昼食のコースメニュー6,000円を2,000円引きにしたり(現在は7,500円を5,500円)にしたり、おまかせは10,000円を8,000円に。土曜日など200人以上、3回転で大忙し。ありがたい仕事と笑顔。こうした来店のきっかけ作りなど、当時の奮闘について語るこの時の今田さんは寿司職人としての現代の名工より、銀座 久兵衛社長の顔だ。

 次の瞬間、背後のビデオには若い板前による材料をさばくシーンが次々に。今田さんの顔は寿司職人に戻る。小鯛、キス、小アジ、アオリイカ、ヒラメ、カレイ、こはだなど。珍しいのは芝海老をさばいたものを使って、海老出汁を用意し、砂糖、みりん、日本酒を混ぜ、昆布だしと共に煮込んでトロトロになったものと卵をミックスして、備長炭で焼いて卵焼きにするというもの。これが寿司屋の卵焼きのあの味を醸し出す。出汁巻きは料理屋のものとか。
 わさびは天城のもの、店では生100%のものしか使わない。海苔は有明、佐賀と色々あるが、現在は伊勢、知多半島辺りのものを契約して入れていいる。お茶は玉露粉を。

 各種イベントも手がけている。就活事業の一環として企業説明会に参加したり、今年も大卒12名を考えているという。イベントでは3,000で太巻きを提供。帝国ホテルの折には2,000人分、熊本の再春館製薬所では1,200人分を扱い、3時間握りっぱなし。なんと因果な商売かとふと思ったこともあったと、笑顔でそう語った。
 味は絵画のように残らない・・・味は砂上の楼閣、常に精進しなければならないと日々諫めている。常連も一見の客も分け隔てなく公平にもてなしたい。企業として当たり前の考えだと強調。オークラ問題など山積の中、率先垂範、現場第一主義で久兵衛の付け台を賑わせていただきたい。

 さて、今夕は寿司にするか。

 
 金子 操(会員)