2018年2018年12月14日    「道中食から読み解く社会経済の変遷」」      

                      相模女子大学教授 湯口清隆さん 

 
 「道中食」とは近代の旅行で移動中に食べる食事全般を指す。最も歴史が長い「駅弁」や食堂車で提供される料理、旅客機の機内食、最近伸びている空港の弁当「空弁(そらべん)」や高速道路の休憩施設や道の駅などで売っている「速弁(はやべん)」「道弁(みちべん)」などが含まれる。今回のテーマはこれらの変遷を主に経済との係わりで追っていくことにある。

 湧口先生は実際に駅弁屋に取材に行ったり実食したりされておられるようでオタク的エピソードにも事欠かない。
ここでは書ききれないので、その内の一つを紹介しよう。
 駅弁でおなじみの幕の内弁当は1889年(明治22年)に姫路駅で生まれ各地に普及していった。幕の内弁当の「三種の神器」は卵焼き、蒲鉾、魚(焼き魚かフライ)だそう。確かにこの3つは大抵の幕内に入っている。
国鉄時代は幕の内弁当を「普通弁当」と呼び,、寿司などほかの弁当を「特殊弁当」と呼んでいた。昭和40年代以降の高速化などで普通弁当の需要は減る一方、デパートの駅弁大会などでは高級志向や新商品開発の需要は高まっている。しかし今では、多くの老舗の駅弁屋が経営破綻や廃業したり、JRの子会社の傘下に入ったりしてるという。
 駅弁は日本の固有の文化だが、以前日本が統治していた海外の地域、台湾などにも駅弁文化が残っているという。かつて日本人が残していった駅弁が、今ではどう変わっているか一度見てみたい好奇心に駆られる



 LCCの台頭による大手航空会社の機内サービス簡素化によって2003年頃から全国に普及した空弁や、格安バス旅行の増加によってブームが到来した速弁や道弁のように道中食はその時の経済状況と深く結びついている。
 湯口先生が今後の展開に注目しているのが、全滅した旧来の食堂車に代わり2000年代から現れた「レストラン列車」だという。
これは従来の道中食のように移動することから派生的に生じる需要ではなく、その列車に乗ること自体に価値を感じてもらう必要がある。この価値を維持するためには沿線の景観整備が必要と考え、畑違いの農林業に乗り出す鉄道会社もあるという。レストラン列車の魅力を堪能するには、西武鉄道が都心と秩父間で運行している「52席の至福」や」、JR東日本が八戸と久慈間で運行している「TOHOKU EMOTION」のように列車内に厨房があるタイプがお勧めだという。
 
 これまで同じ路線のファーストクラスとビジネスクラスの機内食の食べ比べといった、仕事とはいえうらやましい調査をされてこられたようだ。
ファーストクラスのメニューでは「ブルターニュ産オマール海老のポワレ」のように産地と料理法が明記された料理が出るが、ビジネスクラスになると産地か料理法のどちらかになり、エコノミークラスではどちらも書かれない料理になるそうだ。機械があったら是非確かめてみたい。

 今後、交通機関を決める際の要因として「道中食」のウエイトが」いやでも高まる興味深い講演だった。

小森真幸(会員)