中村靖彦コーナー
   「自給率と食糧安保」                                                                 2019年10月7日

 

 

 先日農林水産省は、2018年度の食料自給率が、カロリーベースで37%になり過去最低の数字になったことを発表しました。カロリーベースというのは、私たちが毎日とっているカロリーの内、どれだけを国産でまかなっているかを示す数値です。37%という数字は、かつてコメが大凶作になった時に匹敵する数値です。

 政府は自給率を45%にするという目標を掲げています。食料の安全保障、いわゆる食糧安保を確保するための目標設定ですが、この数値を超えたのは過去に一度あるだけです。目標達成どころか、その差は開くばかりです。そして何より問題なのは、食料自給率についての国民の関心があまり感じられないという事です。何故なのでしょうか。それは私たちの身の回りに食べ物がいくらでもあるからです。

 その上、日本は計画経済の国ではありませんから、何をどれだけ作れとか食べろとか国が命令することは出来ません。数値目標などはそもそも難しいんですね。私はかねてからこのような数値目標を掲げるのは反対だと、いろいろな場で言っていきました。

 公的な世論調査をしますと、多くの人々が、食料自給率を引き上げるのは賛成だと答えます。しかし、そのために個人々々どんな努力をすべきかは分からない、それで自給率は一向に上がらないというのが実情ではないでしょうか。

 けれどもこれではやはり心配ですね。私たちの食卓は、半分以上が輸入でまかなわれているわけですから、世界的な異常気象などで供給が不足する事態になったら、たちまち食べ物が足りなくなります。食料の安全保障のためにも、何とかしなければならないのは明らかです。

 そこで自給率の数値目標ではなくて、もっと地域や個々の農家や消費者が取り組み易い目標を設定してみてはどうでしょうか。生産の数量については、作物ごとに既に努力目標が設定されていますが、日々検証されているとは言えません。それで、例えば地域ごとに農業後継者確保の目標とか、あるいは農地をこれ以上減らさないための目標を市町村ごとに設定するとか、生産力を高めるための数値の設定を工夫してみてはどうか、と考えます。国からの食料自給率の目標のような、抽象的な設定ではなく、個々の自治体や個人も取り組める数値目標にしてはどうかと思うのです。

 それから食糧事情を議論する時には、食べる側のことも考える必要があります。現在、自給率を下げている大きな要因は、家畜の餌の輸入です。日本人の食生活が洋風化して、食肉の消費が増えたために、エサの供給が間に合わず、大量の穀物を海外から買わなければならないのが現状です。ですから、同じ動物性蛋白質でも、魚の消費をもっと増やすための目標を設定する呼びかけなどもあり得るかもしれません。

 そして最後に、食料の安全保障のために必要なことは、国民の食についての関心を高めることだと思います。現在、食の生産現場への理解と関心がいまいちと感じられることがままあるのが私には懸念材料です。

 

 NHKラジオ第一放送「日曜コラム」より