中村靖彦コーナー
「豚コレラ ・ イノシシが意外な大敵」                                                                   2019年9月9日

 

 

 豚コレラという豚の伝染病が広がっています。この病気、人間には感染しませんし、害がないのですが、養豚農家はとれも困っています。感染した豚は死んでしまいます。拡大を防ぐためには豚舎にいる豚を殺処分しなければなりません。現在、蔓延しているのは、岐阜県、愛知県、三重県それに福井県の四つの件です。殺処分された豚は、731日現在127銭湯余りにのぼります。

 豚コレラの病原菌はウイルスです。人間には感染しませんし、万一罹っている豚を知らずに食べてしまったりしても害はありません。ただし豚同士では感染力は強くて、なかなか拡大を止めることが出来ません。養豚農家は、ウイルスの侵入を防ぐために石灰を豚舎のまわりに敷きつめたりしていますが、農家自身が暑さの中の防除作業で、大変な努力をしているのが現状です。

 ところで最近、豚コレラの感染拡大に、イノシシの存在がクローズアップされてきました。イノシシは野生です。ジビエ料理などの需要が増えて、都会の消費者も関心を示すようになりました。このイノシシ、豚とは種類が仲間なので、これまでも勝手に豚舎に潜り込んで交配し、子どもを産ませたりしていました。そして産まれたのがイノブタです。

 イノシシはあちこちの豚舎に入りこんで、豚コレラに感染した豚と接触し、自分も感染しているのです。感染してもイノシシはすぐには発病しませんがウイルスは持っています。このような豚コレラの抗体を持っているイノシシは、7月末現在で岐阜、愛知、長野、三重、富山、福井の6つの県でおよそ900頭見つかりました。罠にかけて捕獲したイノシシを調べて、感染しているかどうか確かめた結果の数字です。

 ここにきて、豚コレラ対策は、一面イノシシ対策になってきました。農林水産省は、全国の養豚場に、イノシシの侵入を防ぐ防護柵を設置することになりました。養豚場の周りを策で囲うことにしてはどうか、というわけです。既に一部の発生した県では、設置を始めた所もありますが、国主導で行えば経費も国が補助することになります。

 もう一つ、今議論が行われているのがワクチンの使用です。発生した場合の殺処分ではなくて、事前にワクチンを投与して感染拡大を防ごうというのです。

けれども、このワクチンの使用については、国の方針も定まっていません。ワクチンを使うと、発症は抑えることが出来ますが、感染を防ぐことは出来ません。ですから、感染した豚の体内に豚コレラウイルスの抗体は残っています。となると、清浄国には認定されないことになります。抗体が普通の感染によるものか、ワクチンによるものかが区別がつかなくなるのです。清浄国にならないと、豚ニックの加工品のなどを輸出出来なくなります。このために、農水省としてはワクチンの使用に踏み切れない、というのが実情のようです。

 養豚農家は多くがワクチン使用を希望しています。

 そこでこの頃、地域を限定したワクチン使用という方法もあるのではないか、という意見も出始めています。ワクチンを使った地域の豚は決してその外には出さない、というのです。いずれにしても、イノシシ対策の防護柵やワクチンなど、新しい発想で取り組まなければならない方策が必要になります。効果のある早めの対策が望まれます。

 

 NHKラジオ第一放送「日曜コラム」より