中村靖彦コーナー
   「大丈夫か? 中国頼りの日本の農村」                                                                2020年3月20日

 新型コロナウイルスの影響が様々な分野に及んでいます。実は日本の農村にも影響があるのです。
それは中国人の日本への入国規制が原因なのです。今回はこの話をしましょう。
 
 数年前の夏、私は長野県川上村という所にいました。この村は、全国でも有名レタスの産地です。ちょうどレタスの収穫期で、私はその取材のために訪ねていたのです。一口に収穫と言いますが、仕事は生易しいものではありません。人々は夜中の2時ころには畑に出ます。まだ真っ暗ですから、照明の柱のようなものを畑のあちこちに立てて作業をします。
 夜が白みかける頃から、レタスを入れた段ボールがいくつも積み上げられます。
 少し明るくなった頃分かったのは、働いている人たちは、殆どが中国人だということでした。日本人とはそれほど見分けがつきませんが、案内してくれた農協の人があれも中国人、こちらも中国人と教えてくれました。
 日本の農家は?と聞いてみますと、こんな辛い農作業なんて、特に若い人は誰もやりませんよ、と云うんですね。ですから中国からの出稼ぎの人がいなければ、有名な長野のレタスの収穫や出荷はあり得ないということなのでした。

 新型コロナウイルスの感染を防ぐために、日本は中国と韓国からの入国者は指定の場所で2週間待機することを要請しました。私はあの川上村の農作業の風景が頭に浮かびました。せっかく働きに来ても2週間も仕事ができないのでは困るだろう、現状はどうなっているのか、私は川上村に電話で聞いてみました。
 役場によりますと、皆が丁度いま、今年の生産の準備をしている所で、これからいよいよ作付の忙しい時期に入るとのことでした。
 海外から農業実習生はおよそ千人が村に入って来るそうで、中国からが一番多く、フィリピン、インドネシア、それにベトナムからの人手も貴重だと言います。しかし、今年は入国が遅れることは明らかで、代わりの労働力をどうするかなど、対応に追われているのが実情のようです。
 もし、実習生が来られない場合は、日本人アルバイトの募集も検討するそうです。けれども慣れない仕事にすぐ入れるか、あるいは旅費や宿泊の場所をどうするか、といった問題があって代わりを見つけるのは簡単ではないようです。

 このように考えますと、日本の農業や食料は、ずいぶん中国頼りの部分があることに驚きます。労働力だけではなく、私たちが食べる野菜にしても輸入する相手は中国が一番です。
食料の生産面だけでなく消費面にも中国の影が色濃く落ちているようで、この傾向がどこまで進むのか、ちょっと気にはなります。経済的に国同士が補い合うのは当然としても、日本の若者は見向きもしないところを他の国に助けてもらう構図はやがておかしいとの声が強くなるのではないかと心配になるのです。

 全国的にも、農作業を海外からの実習生に頼る傾向は定着していて、それが急に入って来なくなれば産地の混乱は避けられません。高原野菜をはじめ、未だ収束の見えないコロナウイルス流行の今年、日本の伝統的な食材の生産はどうなるのでしょうか。
 

 

 

 

 NHKラジオ第一放送「日曜コラム」より