中村靖彦コーナー
「どう守る、都市の中の農地」                            2019年2月1日

 

この頃、都会の中の住宅地を歩いていると、「生産緑地」という看板が立っているのを見かけます。この区画は、狭いながら畑や果樹園などになっていて、緑が道行く人をなくさめてくれています。普段は何の気なしに通り過ぎてゆく風景ですが、この生産緑地には大変な歴史がありました。今回は都市の中の農地について書きたいと思います。

 今からおよそ30前にさかのぼります。その頃、都市の中に散在していた畑などの農地が大きな話題になりました。というのも農地として認定されていれば、固定資産税がきわめて安く設定されるために、見せかけだけ農産物を作っているような畑があちこちに見られるようになったからなのです。日本ではまだまだ土地の値段が上がり続けていました。それなのに形だけの農業を営んでいるように見える土地でも、税金は宅地に比べて非常に安く設定されていて、これでは不公平だとの世論が高まっていました。

 そこで苦肉の策として登場したのが「生産緑地」の制度でした。

 この制度が出来たのは1992年です。市街化区域の中にある5ヘクタール以上の農地で、30年間農業を続けることを約束すれば、固定資産税を安くするというものです。こうして都市部の農業を守る制度が出来たわけです。その面積は、国全体では13000ヘクタール余り、東京都にある農地が一番広くて3200ヘクタール余りになります。

 都市の中の農地にはいくつかの効用があります。野菜などの食料の供給地としての役割はもちろんですが、緑は住民のいやしになります。また災害の時には大切な避難所です。けれども1992年当時は、まだ経済成長論が根強くあって、宅地や工場用地に都市部の農地を提供すべきだとの意見が勢いを得ていました。その風潮の中で、とにかく30年間は都市農業を維持していく制度が出来て、今日まで続いてきたわけです。

 ところがこの頃、この生産緑地をめぐって新しい動きが出てきました。といいますのは30年間農業を続ける条件で、この制度の指定を受けたわけですが、2022年にその期限を迎えることになったのです。時の流れは何と早いものですね。30年が経ちますと、農家はさらに10年間指定を延長してもらうか、誰かに農地を買ってもらうか、誰かと言っても市町村になるのでしょうが、選ぶことが出来る事になっています。

 しかし、今の農家は後継者不足です。指定の延長を望むのは無理かもしれません。かといって、市町村にも財政上の制約があります。公共の用地としても、そんなに広い土地を買うのは難しいでしょう。となると、農家が自由に処分するケースが増えて、不動産市場にこれだけの土地が出てくる結果になりかねません。

 政府は、農地を貸したり借りた場合でも、税金の優遇が受けられるような法律を制定しました。農家が自分ではもう無理でも、より若い優れた農家に農地を貸せば、税金を安くしてもらえる制度です。この際、都市の中の農地を守るために、色々な角度からの政策が求められると思います。

                                             

 NHKラジオ第一放送「日曜コラム」より