和食の講座 お肉をもっと食べなきゃあ駄目だよね。半年前ですか、「食材の寺小屋」のほうで「食肉」について考えとてみよういうことで中村靖彦塾長がいらしたんです。社会的に生活習慣病に関心が高まっている中で、栄養失調の人が増えているというわけです。皆さんよくご存知の日野原重明先生(聖路加国際病院名誉院長)、お仕事でお付合いさせていただいて16年くらい経つんですけど、今年103歳ですが週に2回、ヒレ肉100グラムの牛肉を召し上がります。残り5日はお魚です。お魚も頭から骨まで齧っちゃうんです。百歳過ぎて齧っちゃう。お肉は私も先生に負けないほどいただくほうですけれども、先生を見ていて力強いなぁと思っています。それと先生は、召し上がるのも早い。きっと胃に歯が付いているのかなと思えるほど。召し上がった後に必ず追加して食べる物があります。蒟蒻です。お肉100グラム摂ると蒟蒻100グラム食べる。ジャジャジャって炒めて召し上がる。蒟蒻は胃腸を掃除すると言われますが、「君、これで行って来いだよ」っておっしゃるんです。いつもこんふうに合理的に考えられて召し上がっておられるのかなって、それが伝わってきます。 ケトジェニック食事法のこと、皆さんご存知ですか。最近ケトジェニックダイエットが良いと言われています。アメリカ、マサチュセッツ工科大学のガレンテ教授に発見されたサーチュイン遺伝子が、身体と心を若々しく保つ働きをすることが分りました。摂取カロリーを制限することによりサーチュイン遺伝子がスイッチオンになり、動脈硬化やメタボリック症候群、心臓病、脳卒中などの加齢性疾患が予防でき、高齢期の生活の質が保てる分子機構が明らかになったのです。このサーチュイン遺伝子が肝臓でケトン体を合成し、このケトン体が脳や筋肉や肝臓に働き、体にアンチエイジング作用をもたらすのです。 瀬戸内寂聴さんも肉食派ですよ。今年93歳になられ、仕事をする前にステーキを食べる。焼肉も好きです。今の時代の女性は肉食派が多いですね。(会場爆笑)。あれっ、意味が違ってない! 皆さん、焼肉屋でお肉をこうやって(手振り身振りで)ジュウジュウ焼いていると、何となく嬉しい気分になりますよね。これ、どうしてだかわかりますか。お肉の中に含まれている物質が食べて15分くらいである物質に入れ替るんです。イスラエルの教授達が発見したアナンダマイルと言います。サンスクリット語ですがぜひ覚えておいて欲しいです。 皆さんは「サルコベニア肥満」を知っています。舌を噛みそう。サルコが「筋肉」の事で、ベニアが「減る」という意味です。50歳を超えた頃からお腹のあたりがダブついてきます。代謝が悪くなるからですが、運動もしなくなり、筋肉もどんどん減少します。その代わりに脂肪がつき、体重は変わらないのに筋肉がほとんど無いようになる。それで骨折しやすくなるんです。 日本の食生活は1965年から1985年の20年間が、最もバランスの良い食事だと言われています。65年(昭和40年)以前は炭水化物が多過ぎて、野菜も多く食べていましたけど、問題は塩でした。これが凄かったですよ。厚生省が秋田県で調査をやるので行ったんです。昭和40年には、一日の塩分摂取量が36グラム、漬物、お味噌汁、塩漬けの魚など塩味ばかりでした。三角形に塩を盛ってぺロッと舐めてから酒を飲み、塩が酒の肴には驚きました。今の塩分量は男性9グラム、女性7.5グラム以内ですが、現実は男性11.2グラム、女性10.7グラムで高血圧学会から6グラム、8グラムにしようと言われています。WHO基準は5グラム以内です。 僕は、世の中に「食育」を広めたいという気持ちなんです。挨拶が出来ないとか不登校の問題など、食卓でこれを変えられないか、変わらないかと考えています。 (講演の内容は、主催者が抄録してまとめました/服部栄養専門学校にて) |
講師プロフィール
◆服部 幸應◆ (学)服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長 医学博士●次代の料理人を育成する学校を経営する一方で、テレビ、ラジオ、新聞等でも活躍。2007年に厚生労働省から健康大使を認定される。「食は人の心と体を育むものである」の考えを実践。「選食能力」「しつけ」「食料問題」を柱に食育の重要性を説き、その運動を精力的に展開する●『食育のすすめ』(マガジンハウス)、『大人の食育』(NHK出版)、『味を磨く』(角川書店)など著書多数
【お肉のコラム】
エネルギーの栄養素別摂取構成比(年次推移)
資料:厚生労働省「平成23年国民健康・栄養調査報告」
◆食肉の上手な保存◆ 食肉処理工場では部分肉に3日、マイナス35℃以下の急速冷凍し、その後ラッピング保管をマイナス20℃以下されている。1年以上変質しない状態に置かれる。 家庭の冷凍/ブロック肉 大きな塊は緩慢冷凍の状態になりやすく、あらかじめ作る料理を想定した形態に切り分けて冷凍。解凍した肉は再凍結しないこと。品質劣化、風味を損う。 家庭の冷凍/ひき肉 ラップ材に包み、空気を充分抜き、板状に伸ばして冷凍。積み重ねをしないこと。 家庭の冷凍/薄切り肉 1枚ずつラップ材で包むか、一定量ごとにビニール袋に入れ密封して冷凍。 解凍方法 低温で、ゆっくりが原則。肉のうまみになる肉汁を流れ出させないため。夕食使用には前日夜か当日朝に冷蔵庫に移す。室温に放置、流水や温湯に浸すのは厳禁。料理にもよるが半解凍での調理が良。 食肉に関するデータ:公益社団法人 日本食肉協議会発行『食肉の知識』引用 |
和食の講座
ゆっくりがおいしい! 「牛すじ大根」。昔、NHK「きょうの料理」でやらせていただきました。牛すじが手に入りにくいので、知り合いのお肉屋さんに行く時にとっておいてもらうといいですね。圧力鍋なら15分くらい、そうでなければ30分くらい茹でます。おでんの具に大阪は牛すじ、関東は魚すじ、九州は馬のアキレス腱が入り、馬すじって言うんですけどね。美味しいからと送って貰って茹でたけど、硬いところは全然歯が立たない、軟らかいところは融けちゃう。こういう調理は先ず茹でて、軟らかい部分と硬いのを手で触って分けて、軟らかいのは置いて硬いのをもう一回茹で、また触って繰り返す。 肉じゃがをやります。材料は大体見ればわかりますよね。玉葱と人参と、それから肉じゃがって言うくらいだから、サツマイモ入れちゃあ駄目ですよ(会場笑い)、ジャガイモですよ。先ほどの牛すじ大根で、大根の皮を剥く時に、こ大根のすじを残さないように。大根のすじを残さないように剥くの大変なんで嫌だったら剥かない。思いっきって剥かない事。どっちかね、どうせすじなんだから。 レシピっていうのはあくまでも目安です。それをいちいち見ながらやるんじゃなくて、ちょっとしたら煮ては冷ましを繰り返す。そして調味料はちょっとずつちょっとずつ、そして最後に砂糖足したって醤油足したって良いわけですよ。でもちょっと辛くなっちゃったっていってお出汁を足したら、例えばせっかくの肉じゃがが、バランスが崩れるんです。ですから最後にちょっと足す。そういうふうにしていただくと、とってもよろしいかと思います。行き過ぎた料理よりもちょっと手前の味を心がけていただくと良いと思います。 (講演の内容は、主催者が抄録してまとめました/服部栄養専門学校にて) |
講師プロフィール
◆田村 隆◆ 料亭「つきぢ田村」三代目●大学卒業後、大阪の名門料亭「高麗橋吉兆」で修業後、調理場の最前線に立ち和食の腕を振るう。料理学校の講師やNHKテレビの料理番組に出演し、各種の活字紙誌にエッセイ掲載。一般向けに食の伝承に力をそそぐ。平成22年に厚生労働省から大臣賞「現代の名工」を受賞。●『エッセイ 隠し包丁』(白水社)『日本料理の基本』(新星出版社)『田村隆の和食入門』(NHK出版)など著書多数。入
【お肉のコラム】
■日本史と食肉 古代人は焼肉を食していた。縄文時代は狩猟採集の食生活で肉を食べ、海辺の人は漁労をして魚介類を食べ、一方でクルミ、ドングリの実などを食べている。食糧は農業をしながら自然界からも狩猟や漁労で調達する食生活をしていた。この時代は家畜も飼われていた。 日本人は元来、穀物や野菜中心の食生活だから、肉食が体に合わないという説は間違いですね。月光と火を灯りに、古代人輪になり、焼肉をたべる情景が空想できる 仏教の肉食禁止。飛鳥時代後期(667年)、天武天皇が「殺生禁止令」を出す。肉食禁止はその後およそ500年間続く。 牛肉を食べていたのは誰か。西洋人が肉食の生活を持ち込み、織田信長の時代にキリシタン大名が牛肉料理を食べていた。ところが豊臣秀吉の「伴天連追放令」で、牛馬の食用を禁止。その後鎖国政策により肉食は定着しなかった。だが「薬食い」と称して貴族や武士の特権階級に食されてる。彦根藩から牛肉の味噌漬けを「養生肉」として将軍家に献上。文化文政の江戸期、町人がボタン肉(猪・山鯨)、もみじ肉(鹿)、さくら肉(馬)の鍋料理を好んだとか。 牛肉食が文明開化の象徴になった。ご存知鎖国を破る黒船到来から明治10年頃には東京に牛鍋屋が558軒。牛肉は不足し、それを補うために豚肉が登場する。その後、日露戦争以後、庶民の間に豚肉の旨味が脚光を浴び、大正7年に牛肉需要を逆転。 近代から現代へ、特に昭和40年代に平均寿命男69歳、女75歳になり、いま「人生80年時代」へ。食生活に食肉を上手に取入れた結果でないでしょうか。 食肉に関するデータ:公益社団法人 日本食肉協議会発行『食肉の知識』引用 |