平成21年度 農林水産省 にっぽん食育推進事業

「大人の食育」推進講座

江戸の料理を学ぶ

開催日 平成21年9月13日 AM10:30〜PM2:30
会場 服部栄養専門学校
第1部

体験学習
『江戸の料理を学ぶ』

講師 福田浩 (江戸前料理「なべ家」主人)

『塩梅と加減の妙味を学び候』




揚出大根


松茸・小茄子からし和え


菽乳粥


胡椒飯


香の物


玲瓏豆腐



「だし」
かつほのよきところをかきて一升あらば水一升五合入れせんじ あぢをすひ見候てあまみよきほどにあけてよし 過候てもあしく候 二番もせんじつかひ候 
「精進のだし」
かんぺう 昆布(やきても入) ほし蓼 もちごめふくろに入にる ほしかぶら 干大根 右の内取合よし
出典
『料理物語』著者不詳 嘉永二十年(一六四三)江戸時代の最初の刊本
あと書きに「右料理一巻は包丁きりかたの式法によらす」とあるように新しい時代の料理を目指した点で画期的で後々の料理本に大きな影響を与えた。
「だし」の引き方の根本は昔も今もそう大きな変わりはない。
福田: 「別に、江戸時代に急にこうなったわけではなくて、以前から、出汁を取る方法はこんなところでずっと決まってるわけですね。後は、皆さん方の流儀があろうかと思います。ある先生が鰹節の出汁で最も理想的なのは水出しだと言われました。へえっと思ったんですね。昔から、沸かしたところへ放り込む事が僕らの場合に固まっちゃてますから。確かに水出しコーヒーもありますんで、やってみたら、非常に綺麗な素直なお出汁が取れます。冷たい水に入れておいて冷蔵庫で一晩ラップでもして入れておいて下されば、翌日綺麗に薄い琥珀色の出汁が出来ます。物足りないと思うような感じですが、夏場のお出汁としては、それでお料理なさると、さっぱりして気持ちからしていいなと。うまいまずいは個人差がありますけれど」

「揚出大根」
皮を切りて立に二つに割り 少し小ぶりにすべし ごまの油にあげ すぐに醤油かけ とうがらし またはをろし大根を少しをきて こせうふりて出す也。
出典
『大根一式料理秘密箱』器土蔵 天明五年(一七八五)
五〇の項目があり、このうち二〇項目は切り方などの説明で、三〇項目が料理法である。大根の料理本としてはもう一冊、『諸国名産大根料理秘伝抄』があり、煮物、汁物、膾、漬物など地方の名物料理も紹介している。
福田: 「料理屋さんの献立に出てくることは無いお料理。非常に珍しいと思います。食べた事がないでしょう。皆さんお持ち帰りになって、急なお客さまに非常に良いお料理です。贅沢なお料理です。
意外と油が痛むんです。水が出てきますから痛むんです。残った油では絶対に揚げないで、新しい油はごま油100%。ちょっとキツイというのであれば、ご自分で半々になさるとか、ゴマを三分の一とか、それはご勝手です。ただ、サラダオイルだけでは旨みが全く伝わりませんね。ごま油は必ずお入れいただきたいと思います。
お手元に大根がいってますので、今日は六つ割りにしていただきます。剥くときに、そんなに一生懸命にならなくて大丈夫です。要するにざっと皮を取る。残っていてもかまわない。器に盛った時に上から見てますと分かりませんから気になさらないで剥いて下さい。
温度はだいたい170度ぐらい。天ぷらが18度ですか。油の温度ってなかなか分からないんですよね。適当に沸いた時に入れるという事で大丈夫です。ただし、揚げている間は絶えず気をつけまして、キツネ色よりちょっと強い松の皮色くらいです。ちょっと焦げ目のついた感じが美味しくいただけると思います」

「松茸・小茄子からし和え」
出典
『当流料理献立抄』 著者、刊年不明
『爼板寸法の図』など二十四図の挿絵が目を楽しい。料理の有様を「能」にたとえ「料理は四座の能のごとし 献立は番組なり 魚鳥菜瓜は役者なり あんばいは能の出来 不出来としるべし いかに結構を畫すとてもあんばい悪敷は不興也」
福田: 「マツタケとナスの和えものなんて事自体が珍しい。今もやらない、なかなか小粋なお料理。出典は寛永か天明の頃、18世紀の終わりくらいの本と言われていますがわからない。本にはこれだけしか書いてないですから、辛子和えは普段僕らもやりますから、ちょっとは美味しく食べようかと思いますと、マツタケもちょっと焙ってしんなりさせて割いておきます。小ナスはヘタをぽんと落としておいて四つ割りなり六つ割りなりに切って、軽く塩をして後で揉む。こっちの方だけしっかり辛子和えにしておいて器に盛る時に焼いたマツタケと和えるという事です。両方一緒に辛子和えにしますと、お味が違うような気がしますので、これも皆さんのご工夫で何かやり方があれば良いと思います。
文章には、お料理をお能にみたて四つの座と言ってます。要するに、四つのお流儀のようなもので、献立はお能の番組に当たり、しっかり立てる事が必要なんですね。そして魚とか鶏とか野菜とかは役者さん、演じる役者であります。
按配、つまりお味付けて出来上がったお料理は、せっかく最高の物を取り集めても料理の仕方、あるいは盛り方、あるいは出し方で全てがぱーになる場合もあるわけですから、気をつけなさいよという事でしょうね」

「菽乳粥」(とうふがゆ)
とうふを□ほどの小ざい(こざい)に刻み葛湯にて烹(に)る 炒塩(やきしお)にて匂薬(かげん)し 出しさまに?青菜(ゆであおな)の微塵(みぢん)きざみをぱっとかけ しぼり老姜(しょうが)をおとすなり
出典
『豆腐百珍』 醒狂道入何必醇 天明二年(一七八二)
正編百品、続編百品を尋常品、通品、佳品、奇品、妙品、絶品の六等級に分けさらに付録三八品、余禄(豆華集)四一品を加えて二七九品の豆腐料理が紹介されている。これをきっかけに大根、柚、鯛、甘藷、海鰻、蒟蒻などの百珍本が続出する。
福田: 「お豆のことを菽。□は角に切る。豆腐を小さな四角に刻み、葛湯で煮て、焼き塩で加減し、出す時に菜っ葉を入れなさい。今日は菜っ葉の代りにアサツキを放り込む、ただそれだけ。
我が家ではこういう風にしております。豆腐を5ミリくらいに切り、二つか三つでひゅっと倒す。切る時に包丁はちょっと添えておかないとふらふらします。最後の倒す時の包丁は引かないで置いておかないと崩れますからね」

「胡椒飯」
洗い米一升に胡椒末(こしょうのこ)六分の量を用ひ 水率(みづづもり)常のごとくにし炊 達失(だし)汁にて食ふ 加料(かやく)を用いず。
出典
『名飯部類』 杉野権兵衛 享和六年(一八〇二)
上、下の二巻本で上巻は尋常飯の部から名品飯の部まで八七品、下巻は雑炊、粥からすしまで六四品、合せて一五一品もの。米飯料理を記している。
福田: 「本来は炊いたご飯に胡椒を入れて、要するに胡椒の炊き込みですから、普通にご飯を炊いて、炊き上がりに胡椒を入れていただければ出来上がり。今日の場合、私は普通に白いご飯をお茶碗に盛って汁かけにして胡椒を上置きにします。
胡椒を料理に使うというのは江戸時代に非常に盛んでして、例えば、元禄にはうどんには胡椒。薬味のお決まりだったんです。ただし、ラーメン屋さんの粉胡椒は具合が悪いです。やっぱり、割った胡椒が良いですね。胡椒を割るというのは、粗く割れる場合、中くらいに割れる場合、それから小さく割れる場合と三通りぐらいあります。うちでは
小さなトンカチでぽんと叩くんです。二粒、三粒くらい。大変なんですよ。面倒くさいというか、時間がかかるんですが、それでやった胡椒はこうやって挽いた胡椒と全然味が違うんです。
ご家庭の場合には是非割った胡椒をご用意なさっておいて、うどんだけじゃなくて、味噌汁、おすまし、煮物、焼き物。すべてに胡椒が合うんです。それから、特に今日マツタケを使いますが、松焼きに胡椒というのが出てくるんですね。松焼きは焼いたらちょっと醤油をつけて、また炙って出来上がり。そこへ、すだちとか柚子を添えますよね。その後、食べる時に胡椒をちょっとかける。これがまたね、なかなかなんですよ」

「香の物」
沢庵
福田: 「当然、うちでも沢庵を漬けていたんですが、30年代くらいから気温があったくなって、人間ではよくわからないんですが、沢庵がカビてくるのでおかしいね、と。いくら重石をしてもダメなんですね。実は多摩の方の農家さんに頼んで百本漬けてもらったんですが、それでもダメでした。東京はもうそういう物を作る環境にはなくなってしまったという事で残念です。ご自分の田舎かどこかで作っている所があれば、そういう物を召し上がるといいと思います。

出典
『三都自慢競』(さんとうじまんくらべ)番付 嘉永頃
江戸   沢庵づけ、骨抜きどじょう、はつがつお
京    宇治茶、松茸がり、水菜
難波   魚島の鯛、天王寺かぶら、とうふのから

福田: 「相撲の番付から始まって、役者さんの番付、それから料理屋の番付、食べ物の番付、いろんな番付が出来てます。三つの都、江戸と京都、大阪を比べた番付をちょっと中を抜き出した江戸の名物です。奇妙に思いませんか。今は「どじょう」と書きますが、どじょう屋さんに行けばみんな「どぜう」ですよね。「どぜう」の方がなんか雰囲気がある。これは嘉永ぐらい幕末の刷り物なんですが、ちゃんと「どじょう」ってなってんです。で面白いなと思ったんですね」
なぜ「骨抜き」かはちょっと分かりませんが、田舎ではどじょうはしょっちゅう食べていたわけですね。お江戸に出てきた時に、多少は手を加えて恰好をつけないと、という事があったのかなと思います。今、どじょう屋さんに行って「抜きをくれ」って言うと、「おまえ、味がわかんないな」って言われますよね。確かに骨が付いていた方が美味しいんですが、僕もどうもダメなんですよ」

「奇品 玲瓏豆腐」
千凝菜を煮ぬき其湯にて豆腐を烹しめさましつかふ調味このみ随ひ

福田: 「江戸時代の料理本「料理物語」には、こんなことが書いてございます。あっ、言い残しましたが『豆腐百珍』に『尋常品、通品、佳品、奇品、妙品、絶品』の六等級があります。尋常品は当たり前のもので冷やっこ、上級の妙品に豆腐粥、絶品は湯豆腐でした」



第2部

地域版(築地版)『食事バランスガイド』

講師 鶴岡佳則(関東農政局)

● 地域版(築地版)食事バランスガイドをやさしく解説 ●
地域に根ざした食材に目を向け「地産地消」の食事の楽しさを知る。
参加者は身近な食材と健康づくりの話に納得!



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