2008年6月6日 全国農業新聞 「視界不良の世の中ですが」

『騒ぐだけでは困る』

 

予想通りのことになっている』。』最近の穀物価格の高騰をめぐるメディアの過熱ぶりのことである。
ずっと日本のメディアは、食料や農業問題には理解も関心も薄く、私はしばしばじれったい思いをしてきた。ただ、何時か食料事情が厳しくなった時には、今度は火がついたように書いたり、映像を流したりするだろうなとは思っていた。予想は、比較的早く現実となった。

 

新聞も放送も、連日、食料品の値上がりとその背景を競うように報道しまくっている。今にも、食べ物がなくなってしまうような論調さえある。
記者たちを指揮するデスクの顔が見えるようだ。「おい、ウチはアジアのコメ不足のこと、もっと書けねえのか。この新聞はずいぶん詳しいぞ」「その後、エタノールへのトウモロコシの転用はどうなっているんだ」。毎日、こんなやりとりが編集局の中を飛び交っているのだろう。遅れを取るな、どんどん書けである。
世界の重要なトピックである穀物危機を取り上げるのは結構なことである。だけど騒ぐだけではダメなのである。

 

 

どこの国だって、供給が少なくなれば自分の国の生産を増やすことを考えるだろう。なにも政府が声をかけなくとも、価格が上がるのだから、生産者は懸命になって作付けを増やす努力をする。当たり前の話で、EU(欧州連合)では生産調整を止めて増産に力を入れることにした。

 

ところが日本の場合には、世界中から食べ物を買いまくって来たものだから、国内生産を強化する視点がなかなか出てこない。
38万㌶余りある耕作放棄地についても漸くなんとかしなければ、という空気は生まれているが、具体的にどうすればいいのか提案もない。
この際メディアには、食料危機の深刻さを伝えるだけでなく、日本で足りない分をどう補うのかの提案を期待する。されに飽食といわれる食生活について、消費者はどう考えるべきなのか、議論の材料を提供して欲しい。その力量が問われる時代である。