平成18年11月5日付け 熊本日日新聞「論壇」

「石油も大事、だが飼料も大事」

 

『お金は大事だよ~』というCMがあった。滑稽なアヒルが登場するCMである。
この頃私は、真似をして、『石油は大事だよ~飼料も大事だよ~』と言いたい気持ちである。

 

その気持ちの原因はエタノールである。エタノールは、エチルアルコールである。
アメリカでは、ずっと続いている原油価格の値上がりに対抗するために、エタノールをガソリンに代わる燃料に使おうという雨後戯画活発になってきた。
車社会アメリカの、止むにやまれぬ対応なのである。このことは日本、いや世界にも少なからぬ影響を及ぼすだろう。

 

日本にも影響が留理由は、アメリカでエタノールを製造するのに使う原料がとうもろこしだからである。
アメリカは年間およそ3億トンものとうもろこしを生産する国である。

 

そのうち、四千六百万トンが輸出に向けられる。日本は毎年1600万トンほどを輸入している。
1200万トンが餌用、残りが澱粉用である。アメリカが、このとうもろこしを国内のエネルギー需要に向け始めれば、当然輸出は減るだろう。」とうもろこしの大輸入国である日本への影響は大きい。
2006年1月、ブッシュ大統領は一般教書演説で、アメリカ国民に対して呼びかけた。
エタノールなどの石油に代わるエネルギーの開発で、2005年までに中東からの原油の輸入を75%以上削減しようというのである。

 

 

既にアメリカでは、2005年に包括エネルギー法という法律が成立していて、環境を汚さない燃料として、ガソリンに混ぜるエタノールの増産を義務付けている。大統領の演説も、この前提にもとづいている。
エネルギーとしてはガソリンの67%程度だが、ぜいたくを言っている有場合ではない。
エタノール生産に対する、減税などの助成措置もとられていて、国内のエタノール生産は急増することになった。
製造工場も次々に建設されている。2000年に16億ガロン(1ガロン=3.8㍑)だった生産量は、07年には60億ガロンになった。
さらに包括エネルギー法では2012年には75億ガロンを越えることが求められている。

 

エタノール1ガロンを生産するのに必要なとうもろこしは0.35ブッシェル(1ブッシェルは0.025トン)である。
換算すると、75億ガロンのエタノールを生産するには、6500万トンものとうもろこしが必要になる。
この数字は、アメリカのとうもろこし輸出の総量を遙かに超える。シカゴ取引所におけるとうもろこしの相場は、しばらく低迷を続けていた。ここにきてのエタノール需要は生産地にとっては救いの神と映るのだろう。

 

エタノール工場が集中するミネソタ州選出のピーターソン議員は次のように述べている。

 

「アメリカは、年間20億ブッシェル(5000万トン)のとうもろこしを輸出しており、これをエタノール生産に投入することができる。また、畜産の飼料価格への影響については、その心配はないとの研究結果がある」(国際農業・食料レター2006年7月号、全国農協中央会発行より)

 

どんな研究結果かは分からないが、産地に都合の良い解釈のような気もする。日本向けを含めた輸出よりも新しい用途が重要だとする、このような意見は頭に入れておく必要がある。
とうもろこしの相場がいまの水準なら、農家は餌用よりは燃料用に売る方が得になる、との計算が産地の人々の頭の中にある。

 

アメリカだけではない。世界二位のとうもろこし生産国である中国は、いまのところは国内で需給を保っている。
しかし在庫量は急激に減っており、大豆のように輸入国に転じる可能性はきわめて高い。
そうなれば飼料用穀物の争奪戦である。何時までも外国をあてにはできない。

 

飼料輸入大国日本は、食品残さの利用や飼料用稲の普及、山間地の牛の放牧など、既に始まっている工夫を発展させて、少しでも自給度を上げていく取組が必要になるだろう。